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仙台地方裁判所 昭和35年(行)10号 判決 1963年4月26日

原告 寺崎はな

被告 仙台国税局長

訴訟代理人 朝山崇 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告主張の一、二の事実は当事者間に争いがなく、昭和二九年五月一八日から昭和三一年一月三〇日までの「文化映画劇場」の各月毎の税込入場料金、課税標準額(税抜料金)、入場税額の原告申告額、一関税務署長の再調査決定額、被告の審査決定額、ならびに右再調査決定および審査決定と原告の申告額との各差引額が被告主張のとおりであることは、原告の明らかに争わないところである。

二、成立に争いのない甲第一号証の一ないし四、第二号証と証人寺崎邦男の証言によると、原告の前記申告額は、甲第一号証の一ないし四の入場券受払簿の記載によつて算定されたものであつて、右受払簿は官給の入場券の受け払いを記載したものであることが認められる。

よつて右受払簿の記載の正確性について検討する。

証人斎藤吉利の証言によると、同人が昭和二九年八月一日から昭和三一年七月まで一関税務署在勤中「文化映画劇場」に行き調査した際、入場税法の定めにより、入場者に対しては入場券の半片を切り取り、他の半片を返さなければならないのに、このことをしないことのあつたことを一、二度現認していることが認められること。成立に争いのない乙第一号証の一・二、第二号証の一ないし五、第五六号証の一・二、証人斎藤吉利の証言によると、昭和三一年一月一日発行の映画年鑑による全国の地方映画館の入場金(税抜)に対するフイルム代金の平均歩合は五割六分、国税庁調査による全国平均歩合は五割七分八厘、岩手県下では六割四分であるのに、「文化映画劇場」の昭和二九年一〇月から昭和三〇年九月までの申告による一年間の入場料金(税抜)に対するフイルム代金の歩合は一一割六分となつていて著しく高率であり、フイルム代だけで欠損となり人件費その他の諸経費を算定すると入場料金に対し約五割、九九一、七一五円の欠損となつていて、他に収入のないかぎりこのように長期に欠損のまま営業を継続していることは不合理であることが認められ、以上の事実から、原告は、入場税法第一九条に定める手続をせず、入場料を領収しながら入場者に入場券を交付しないか、入場券を交付しても、入場に際し入場者からその呈示を受けながら半片を切り取りこれを返すことをせずそのまま再度使用しているものがあつて、実際の入場者と受払簿の入場券使用枚数とは一致していないものと認めるのを相当とする。右認定に反する証人寺崎邦男の証言は採用できない。

原告は、受払簿は毎日明白に記載し、税務署係官の点検を受けているから、その記載は正確である旨主張するけれども、証人守屋光雄の証言によると、甲第一号証の一ないし四の受払簿は、政府発行の入場券を原告に交付するごとに残券を確認し、残券数と交付枚数につき検印し、時々行う検査の際にも残券数を確認し、検印するけれども、それはあくまで残券数の確認にとどまり、実際の入場者と使用入場券の一致することを確認するものでないことが明らかであるから、右主張は採らない。

なお、成立に争いのない甲第一号証の四、乙第六号証の一ないし五八二、第五四号証、第五五号証の一・二、証人斎藤吉利の証言によると、昭和二九年一〇月中原告は「文化映画劇場」で映画「新平家物語」を上映するに際し、税込入場料一〇〇円の前売券である特別入場券四六〇枚を発売しながらこれを申告していない事実が明らかであり、右認定に反する証人寺崎邦男の証言は採用できない。

以上によれば、原告の申告した以外になお「文化映画劇場」の入場料金があつたものといわねばならない。

三、成立に争いのない乙第三号証の一ないし八五、第四号証の一ないし四五、第五号証の一ないし三二、第七ないし第五三号証人石河賢次郎、佐原良輔の各証言によると、原告は、「文化映画劇場」の入場料金は株式会社岩手殖産銀行一関支店の寺崎キヨ子、寺崎きよ子、寺崎邦男名義の当座預金、普通預金口座に預金または定期積立金としていたのであるが、昭和二九年五月一八日から昭和三一年一月三〇日までの間の右預金および積立金は、他からの送金、銀行借入金、他勘定からの振替分を除くと、別表(四)の1ないし10欄のとおりであること、原告は、「文化映画劇場」の上映フイルム、宣伝ポスター、ビラなどの代金は、映画会社から一関駅に代金引換で送付されたものは、現金または前記預金から振り替え支払いをし、代金引換でないものは同銀行から、寺崎きよまたは「文化映画劇場」などの名義で、送金為替または電信送金為替により支払つているが、前記期間中前記預金から振り替え支払いまたは送金したものを除外し、現金を持参して支払いまたは送金したのは、別表(四)の11ないし13 27 31欄のとおりであること。原告の同銀行からの手形借入金(ただし借入名義人は寺崎邦男、寺崎金次郎、寺崎きよ子となつている)の前記期間中の弁済金中手形書替によるもの、前記預金から振り替えたものを除き現金で支払つたものは、別表(四)の17ないし19欄のとおりであること。原告の電力料、電話料、国税、地方税および国税移管前の地方税当時の入場税の未納分で前記期間中納付されたもので、前記預金からの振替支払による分を除外し現金支払によるものは、別表(四)の21 22 28ないし30欄のとおりであること。その他原告が前記期間中に現金で支払つたものは別表(四)の23 25 26欄のとおりで、別表(四)の1ないし31欄(ただし14 15 16 20 24は欠番)の各月欄の合計は別表(四)の合計欄記載のとおりとなり総計一三、七八九、三九〇円となることが認められる。

右認定の預金、諸支払いは、反対の主張、立証のないかぎり原告がその経営する「文化映画劇場」の入場料金からなされたものと認めるのを相当し、従つて別表(四)の合計欄の各月の合計額が前記期間中の各月の「文化映画劇場」の税込入場料金と認むべきところ、原告は、前記預金中には、四記載のとおり入場料金以外のものが含まれている旨主張する。しかし、右認定の別表(四)の1ないし10欄の預金額は、前記認定のとおり、他からの送金、銀行借入金、他勘定からの振替分を除外したものであつて、他に具体的に原告が主張、立証しないかぎり、これを認めるに由ないものといわねばならない。

四、以上の認定によると、被告が、原告の「文化映画劇場」の昭和二九年五月一八日から昭和三一年一月三〇日までの各月の税込入場料金を別表(三)のとおりと認定し、原告の申告額との差額につき、入場税の最低税率である入場料金の一〇〇分の一〇を適用し、別表(三)のとおりその課税標準額、入場税額を算定したのは正当であつて、これを取り消さなければならないかしはない。

五、よつて原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 福島登 鍬守正一)

別表(一) 原告が申告した税込入場料金等調<省略>

別表(二) 一関税務署長の調査決定額調<省略>

別表(三) 被告の審査決定額調<省略>

別表(四) 興業収入調査表<省略>

別表(五) 映画常設館権衡調査表<省略>

別表(六) 一関市内および全国標準歩合との権衡調査<省略>

別表(七) 調査額と申告額の割合による権衡調査<省略>

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